第1回[長谷川一男さん]


1. がんがわかったきっかけについて

現在48歳。神奈川県横浜市に妻の実家で子供2人と住んでいます。マスオさんです。仕事はフリーのテレビディレクター。精力的に働いていました。発症は2010年2月25日です。日付を忘れていません。発症した日付忘れない方多いですよね。やはり、人生が変わった日だからと思います。39歳でした。尋常でないほどの咳が出始めました。最初は風邪だろうと思い、安静にしているのですが、状態は悪化するばかりです。そのうち右の首筋がはれてきました。何か異常な状態が起こっている…そう確信し、救急病院に駆け込みました。そこで、肺がんの中の「腺がん」というタイプであることが判明。ステージは最も進行した4。当時の生存期間中央値は12か月です。

数あるがん腫の中で、肺がんは死亡数1位。年間におよそ7万5千人が命を落としています。たばこが原因というイメージですが、そうではない患者も多いです。私もそのタイプで喫煙歴はありません。肺がんは予後が悪い難治性のがんに位置づけられると思いますが、近年、肺がんは治療法の進歩が著しく、長期生存者も増えているという状況です。ノーベル賞を取った本庶佑先生(京都大学)の尽力によりできた薬も肺がんで使用できます。

現在10年目に入っています。抗がん剤は8個使用。めぼしいものは使いました。放射線治療・手術も行いました。三大治療は全部やっています。手術では右肺を全摘出しました。肺が半分ないわけですから、階段を登ることや小走りがきついです。座っていると普通でいられます。残念ながら手術の合併症も起こしました。今も苦しんでいます。現在おなかの中に複数の転移がある状態。しかしながら落ち着いてくれていて、経過観察の期間が続いています。

2. 治療について:治療方針をどのように決定したか?検索した情報サイトがあれば教えてください

 進行肺がんの場合、標準治療によって一番良い薬が決まっている、先生は私にそれを伝えてくれて、「一番効果の高い薬を使います」と告げてくれました。「はい」と返事をし、治療に入っていった記憶があります。肺がんといっても、その中に様々なタイプがあります。検査し、自分がどのタイプなのか診断を付けていく経緯は、自分がこれからどうなってしまうのかわからず、とても心細かったです。しかし、先生が一所懸命動いてくださっている姿も目に入ってきて、安心する気持ちもありました。

 何も知らなければ何も判断できない。そんな気持ちから、治療に関して本を一冊購入しました。大学の先生が書いたもので、肺がんとはなにか、診断から治療(手術、放射線、薬物治療)までが横断的に書かれたものです。これで、肺がんの概要はつかむことはできました。

しかしながら、治療の細かいところになると、なかなか情報は得られません。あとになって、情報を得るにもそれなりの知識がないと集められないとわかるのですが、その時はそんなこともわかりません。ありとあらゆる情報を、ネットから仕入れてきました。試験管で有望ながんの原因を見つけた・診断技術が大きな変貌をとげる・はては、怪しげな代替療法まで。「肺がん」と名前がついていればとにかく何でも良かったのです。

それが変わったのは、治療の節目の時に受けたセカンドオピニオンです。進行がんの場合、薬が効かなくなれば、薬を変更する。その繰り返しが治療になります。その節目で受けたセカンドオピニオンで、先生が選択肢をいくつか挙げてくださいました。その時、雷に打たれたような感覚が襲いました。私の頭の中で、自分が読んできた治療の記事と、先生が教えてくれた選択肢が、瞬時に結びついたのです。臨床試験のデータと、今自分に示されている標準治療の選択がつながり、治療というものがどうやってできていくのか、どうして自分に提示されているのか、瞬時にわかるときでした。今まで点でしか存在していなかった情報が、線の情報としてつながっていきました。すると、むさぼり読んでいた情報の中で、自分に必要なものと、必要でないものが一瞬で判断できるようになっていきました。

以上は10年前の話です。今は市民公開講座(ネットも含めて)や、様々な冊子、ガイドラインなどで、治療情報が公開されています。それを見ることが治療方針の決定に役立つと思います。その時、自分自身の治療とどう結びつくか、どう応用できるか、常にその視点に立って、ただの知識で終わらせないようにすると、生きたものになると思います。加えて、半年に一度、1年に一度など、情報をアップデートしていく。肺がんは数か月で標準治療が変わっていきます。それをおさえる。そうすれば間違いなく、主治医との会話が変わります。もっといえば次々と出てくる情報の中から、必要な情報を見極められるようになり、気持ちがラクになります。情報に振り回されることがなくなるからです。

3. がんを体験したからこそわかったこと、伝えたい思いを教えてください

時間が有限であること。
命には限りがあり、いつまでも続くと思っていた日常は、とてもかけがえのないものに変化しました。 そして、できなくなることが多くなっていく、そんな経験もしています。しかしながら、できなくなることが増えていっても、何もできなくなるということではありません。どんな時でもできることを探すと、できることが見つかってきます。それによって自分の人生が豊かになることも身を持って体験しました。考え方次第でどうとでもなるのだと変な自信を持っています(笑)