第7回 関直行さん


1.がんがわかったきっかけについて

2013年夏頃から胃の調子が悪いような感覚がありました。当時36歳で一般的な会社員でしたが、業務内容がハードな面もあり、早朝から夜中、土日も含めて仕事漬けの日々を送っていました。

季節が夏から秋へと変わる9月初旬、なんとも言えない激痛がみぞおちから背中に掛けて走り、内側から胃を思いっきり掴まれているような痛みに襲われました。その日はいつも通りクレーム対応や上司からの叱責を受けて胃の痛い思いをしていたので、ついにストレスで胃潰瘍にでもなったかと少し軽く見てました。這うように帰宅して、妻に伝えた後そのまま救急外来へ一人で駆け込み、翌日から即入院となりました。

検査の結果、すい臓のあたりになにかある。と説明を受け、大学病院へ転院。そのまま手術までのレールを敷いてもらいました。

2.治療について:治療方針をどのように決定したか?検索した情報サイトがあれば教えてください

手術前は「がん」というものへの知識がほとんどなく、まだ確定診断も出てない状況だったので、病院で治療してもらえれば治るものかと思っていました。僕はドラマの手術シーンや、血を見ると貧血で倒れるくらい弱かったので、なんとか手術しないで治らないかと主治医に相談しました。すぐさま主治医は口を開き「今のあなたの症状をみたらどんな医師が診ても手術を勧めるだろう。これ以上悪化すると手遅れになるかもしれない。」と真剣な顔で説明され、怖いけど手術する覚悟を決めました。

その頃はまだ情報収集するような余裕もなく、仕事に追われたまま体調の変化と手術に怯える日々でした。

手術は12時間以上掛かり、はっきりと覚えているのは数日経過後でした。術後の病理検査の結果、『すい臓がんステージⅣa』の確定診断を受けました。リンパ節にも転移しているとのことで、その後は抗がん剤治療しながら、再発予防を行う治療方針の説明を受けました。
  自分ががんとわかり、不慣れなスマホで入院中はネット検索し続けましたが、すい臓がんはとても予後が悪く、希望の持てるような明るい話しは全く有りませんでした。個人のブログや生存率の情報を何度も開いては、先のことなど考えられず、ただ絶望の淵に立たされているような状態がしばらく続いたことを覚えています。

月日が流れ、術後の化学療法を経て4年目を迎えた2017年秋。突然の下血や立ち眩みの貧血症状がひどくなり、妻に症状を伝えて一人で救急外来へ。予想はしてましたがそのまま即入院になりました。
  検査の結果は『すい臓がん局所再発と腹膜播種』というものでした。このとき受けた衝撃は、最初の手術+がん告知以上であり、少し死を意識しなくなった平凡な日常生活から、一気に足を掴まれて引き戻される感覚でした。

このときの治療方法は選択肢が少なく、主治医から丁寧な説明を受けました。ほぼ2択。1つはQOLを保ちながら比較的優しい副作用の抗がん剤治療で様子を見る。2つ目は副作用がかなり重いが効果が期待できそうな抗がん剤治療。この2択から自分自身のライフスタイルに合わせた方針を家族で相談し決めました。とはいっても自分のことなので、結局は自分が決めた治療方針を家族には理解してもらいました。自分が選んだのは後者。主治医の説明で「がん細胞は増殖し始めたら勢いが止まらないから今のうちに強い抗がん剤を使用するのが理想かな・・・。」というニュアンスに納得したものです。
  あくまでも自分が決断したことなので、人によって選択肢は変わるので正解は無いものだと思っています。

この頃には『キャンサーペアレンツ』というSNSを中心としたコミュニティサイトに登録して、たくさんの仲間と繋がることができました。情報収集したり、励ましてもらったり、不安を共有しあえるような、心の拠り所としていました。ここで知り合った同じ境遇の仲間からの後押しもあり、つらい抗がん剤治療にも立ち向かえる勇気をもらうことが出来ました。
  『キャンサーペアレンツ』は子どもを持つがん患者同士がSNS上で日記を投稿したり、同じ境遇の方とつながり悩みや喜びを共有したりするサイトです。年代・性別・がん種関係なく、たくさんの「子どもをもつがん患者」がいることを初めて知りました。一人じゃない。これほど心強いことはないということも実感しました。以降はイベントブース出展や様々な企画を微力ながらサポートし、自分自身の体験談を発信するような活動を共有しています。自分が経験したからこそ、ありのままを伝え、それを見た方が少しでも一歩前に進みだせるきっかけになればうれしいと思います。
 今はコロナ禍においてオンラインを中心とした活動が中心ですが、様々なテーマを会員自らが企画し、それに共感を持った仲間が気軽に参加できるようなところも、患者会というハードルに抵抗を感じる方がいたら、少し敷居が低いかもしれません。
*一般社団法人 キャンサーペアレンツhttps://https://www.cancer-parents.org/

再発から4年が経過し、現在も抗がん剤治療を行いながら、仕事・家族との時間を大切にして過ごしています。今ではSNSの進歩により新しい情報が気軽に収集できる状況になりました。治療方針についても、患者と医師がフラットに相談できて、患者の意見を尊重しながら選択できるような環境が徐々に構築されているとお聞きします。ただ、インターネット上だけでの情報収集では、なにが正しい情報かわからない場合があるため、1つの情報だけにのめり込まず客観的な目線で見て、ひとりで抱え込まないことを心がけてます。

3.がんを体験したからこそわかったこと、伝えたい思いを教えてください。

●明日が来ることは当たり前じゃない
  がんになる前は、明日が来ることが当たり前と思って過ごしていました。その日にできなかったことは明日でいいや。と先送りしていることが多かったです。がんに罹患した後に気づいたことが、明日が来ることはなんて幸せなんだろう。という気持ちでした。また、ちょっとしたことにも感謝することが増え、「ありがとう」と声に出すようにすると、今までは何気ない日常生活に溶け込んでいた景色がとてもきれいに見えてきました。

●支えてくれたみなさんへ感謝
  がんに罹患してから今までの生活は、本当にたくさんの人の支えがあってこそ、生きていくことが出来ました。家族、仲間、医療従事者、職場関係者など支えて頂いた皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。当時思ったことは、自分自身の今の状況を理解してもらうことで、自然と協力してもらえる関係を構築していこうと思ったことです。なるべく普段通りの生活をすることを心がけていましたが、どうしてもつらい時には声を上げたり、頼ったりすることが出来た方が、周りへの「がん患者」への理解度にもつながると考えていました。

●がんと共存することをプラス思考に
  がんになったことで、今までになかった出会い、感情、行動、経験を得ることができました。大袈裟かもしれませんが、僕の人生においてとてもプラスになっていると受け止めています。もちろんそれまでにできたことが出来なくなることもあるし、抗がん剤の副作用で不自由なこともたくさんあります。
  もし今大変な思いや不安を抱えている方がいらっしゃったら、ちょっと勇気を出して足を前に踏み出すことで新しい発見があるかもしれません。生きている限り、明日はみんな平等に迎えられるはずです。
  これからもがんとともに共存して、なるべく普段通りの生活を過ごせるよう心掛けていきたいです。