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がんの罹患数

がんの罹患 l 患者の生存率 l がん登録 l がん登録が役だった例
 

罹患数の定義

がんの罹患数とは、「対象とする人口集団から、一定の期間に、新たにがんと診断された数」を意味します。
 
対象とする人口集団 人口の大きさを計測することができる集団であることが必須条件です。そのため、都道府県・市区町村などを単位とすることがほとんどです。
一定の期間 通常は、年を単位に用います(年度ではありません)。罹患数が少ない場合(発生が稀な部位、人口規模が小さい場合、など)では、偶然変動による影響を抑えるために、複数年のデータをあわせて集計する場合もよくあります。
がんの数 がんと診断された患者の数ではなく、「がんの数」を数えます。つまり、同じ人に複数のがん(多重がん)が診断された場合には、それぞれの診断年で、集計に含まれます。
 

がん罹患数の計り方

  1. 多くの患者では、複数の情報源から情報が収集されます。それをそのまま集計すると、がんの数ではなく、情報の数を集計することになり、実際のがんの数を過大評価することになります。そのため、同じ患者の情報をひとまとめにする照合作業が不可欠です。
  2. 多くの患者では、複数の情報源から情報が収集されます。それをそのまま集計すると、がんの数ではなく、情報の数を集計することになり、実際のがんの数を過大評価することになります。そのため、同じ患者の情報をひとまとめにする照合作業が不可欠です。
  3. その年以前に、既にがんと診断され、その後の継続治療を行っている患者を除外し、集計対象とする年に初めて診断されたがんを抽出して、集計します。また、対象地域外に居住する患者の情報も、集計対象から削除しなければなりません。
  4. がんの特性を明らかにするために、性、年齢、がんの部位、居住地別などに集計します。
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罹患数と罹患率

数と率

  1. がんによる問題の大きさを知るためには、まず、罹患数が必要です。しかし、罹患数そのものを、人口の大きさが異なる地域や期間で比較することはできません。
  2. 対象とする地域や期間における人口の大きさの違いを考慮して、がんの問題の大きさを比較するためには、がんの数を人口で割った「率(rate)」を用います。通常は、小数点以下の小さな数値を用いることを避けるため、それに10万を掛け、人口10万人あたりの率を用います。
がんの罹患率
(人口10万人あたり)
罹患数 / 対象とする人口(人年) × 10万(人) 
 

分子(罹患数)と分母(人口)

  1. 地域の住民を対象に、がん罹患率を求める場合、率の分母に用いる「対象とする人口」には、同じ期間におけるその地域の人口を用います。
  2. 偶然変動による影響を防止するために、複数年のデータをあわせて見る場合は、その年数分の人口をあわせて分母に用います。
  3. 「1998年の大阪府人口」と言っても、それを簡単に計測することはできません。大阪府の人口は、出生、死亡、転出入によって、常に移り変わっています。
  4. 大阪府がん登録では、5年に1回行われる国勢調査で把握された性、年齢階級(5歳階級)別人口から、内挿・外挿した値を人口データとして用いています。内挿とは、1995年と2000年との違いを5等分して、1996年から1999年の間を埋める方法です。外挿とは、前述の方法で得られた傾斜をそのまま伸ばして2000年以降に伸ばしていく方法です。
人口 対象とする地域における集計年の人口。国勢調査(1回/5年)の結果を基礎として、国勢調査のない年の人口を推計して用います。
 

粗率・年齢階級別率

  1. 全年齢のがん罹患数を、全年齢の人口で除した値を「粗罹患率」と言います。
  2. がんは、一種の老化現象ですから、年齢が高くなるほど、がんに罹る確率が高くなります。がんの特徴を明らかにするためには、年齢別に罹患率を見ることが重要です。これを「年齢階級別罹患率」と言います。
  3. 一般に、年齢を5歳単位(0-4、5-9、10-14、...、80-84、85以上の18群)に区切ります。小児におけるがん罹患率を見る場合には、0歳と1-4歳とを分けて見ます。年齢階級別罹患率は、診断時年齢がその年齢階級のがん患者数を、その年齢階級の人口で除して計算します。
  4. がんの罹患率を地域間で比較する場合、あるいは、同じ地域で過去から現在までの推移をみる場合、全年齢の粗罹患率を用いることは適切ではありません。というのは、人口の中で高齢者が占める割合が大きいほど、がんの罹患数が多くなり、粗罹患率も高くなるからです。
粗率
(対人口10万人)
全年齢のがん罹患数 / 全年齢の人口 × 10万
(※年齢構成の異なる地域・期間の比較には用いない)
年齢階級別罹患率
(対人口10万人)
年齢階級別のがん罹患数 / その年齢階級の人口 × 10万
 

年齢調整の必要性

  1. がんに罹る確率の地域差・移り変わりを知るよい方法は、年齢階級別罹患率を比較することです。しかし、18群もの年齢階級で年齢階級別罹患率を見ることになり、とても大変です。
  2. 人口の年齢構成が異なる集団で、罹患率を比較するために、年齢調整罹患率と標準化罹患比という2つの方法が用いられます。
 

年齢調整罹患率

  1. 年齢調整罹患率は、「標準とする人口」と同じ年齢構成であれば、人口10万人あたりの罹患数はこの程度になる、と推測した値で、次のように計算します。
      (1)対象とする地域で年齢階級別罹患率を計算し、
      (2)「標準とする人口」の年齢階級別人口に(1)で得られた年齢階級別罹患率を乗じ、
      (3)それを全年齢で足し合わせて、
      (4)標準とする人口の合計で除した値です。
    当然、「標準とする人口」に何を用いるかによって、値が異なってきます。
  2. わが国では、1985年(昭和60年)の日本人人口に基づいて作成された「1985年日本人モデル人口」を標準人口に用いることになっています。罹患率の国際比較では、「Dollらの世界人口」という標準人口が用いられます。
  3. 日本人モデル人口は、世界人口よりも、高齢者に重きを置いた年齢構成ですので、年齢調整罹患率も、日本人モデル人口を用いた方が、世界人口よりも高くなります。しかし、この15年間に、人口の高齢化が急進しているため、日本人モデル人口を用いた年齢調整罹患率と粗罹患率との乖離は、年々、大きくなっています。
年齢調整罹患率
(対人口10万)
年齢調整罹患率に、「標準人口」における年齢構成の重みをかけたもの。標準人口:1985年日本人モデル人口(国内比較)、世界人口(国際比較)
 

標準化罹患比

  1. 人口規模の小さい集団で年齢階級別罹患率を計算すると、偶然変動による影響を大きく受け、偏った値になる可能性が高くなります。このような場合の年齢調整の手法として、標準化罹患比が用いられます。
  2. 標準化罹患比は、標準とする人口集団(例えば全国)と同じがん罹患率を持つとしたら、その集団で何人のがんが発生するかを予測し(これを期待値といいます)、実際に観察されたがん罹患数を、期待値で割った値です。
  3. 標準とする集団に比べて、何倍、がんが罹患しているかを示す値で、これが1の場合は標準集団と同じ、1より大きい場合は、標準集団よりもがんが多く、1より小さい場合は、がんが少ないことを意味します。
  4. 期待値は、
      (1)標準とする集団の年齢階級別罹患率を計算し、
      (2)対象地域の年齢階級別人口に(1)で得られた年齢階級別罹患率を乗じ、
      (3)それを全年齢で足し合わせて得ることができます。
標準化罹患比 実際の罹患数/標準とする集団の年齢階級別罹患率と対象地域の年齢階級別人口を掛け合わせた期待値 
   (※>1ならば標準人口より罹患率が高い)
   (※人口規模が小さい場合は、年齢調整罹患率よりもこちらを用いる)
 

累積率

  1. 累積率は、年齢階級別罹患率に、その階級に含まれる年数を掛け、特定の年齢まで足し合わせたてものです。
  2. 0-74才累積率がよく用いられ、74歳までにそのがんに罹る確率の近似値として用いることができます。人口1,000人当たりの値として示します。
0-74歳累積率
(対人口1,000人)
0-4歳年齢階級別罹患率(対人口10万)×5年(0,1,2,3,4の5歳分が含まれるから)+5-9歳年齢階級別罹患率×5年+...+70-74歳年齢階級別罹患率×5年 / 100
(※74歳までに、そのがんに罹る確率の近似値)
 

性別と男女計:足し算?平均?

  1. 罹患率を計算する場合、分母の人口には、「そのがんに罹る可能性がある人々」を含めることが原則です。子宮がん・卵巣がん、前立腺がん・精巣がんなど、生殖器官のがん罹患率を観察する場合は、その性別に対応した人口を用いることが原則です。
  2. がんの罹りやすさは、性別によっても大きく異なるります。そのため、がんの罹患率は、性別に集計した値を報告することが一般的です。
  3. 多くの部位では、男が女よりも高い罹患率となります。その一つの理由は、がんの原因となる生活習慣(喫煙、多量飲酒)を持つ割合が、女よりも男で高いことです。
  4. 男女別の値から、合計のがん罹患率を知りたい場合には、どうするのか? ここにも大きな落とし穴があります。
  5. 「男と女の罹患率を足して2で割れば、男女合計になりますか?」という質問をされる方がよくいます。これは間違いです。この方法を用いることができるのは、全ての年齢階級で、男女の人口が等しい場合のみです。男女の年齢分布は、年齢によって大きく異なりますので、この前提は、無効です。
  6. 男女合計の罹患率は、男女合計の罹患数を男女合計の人口で割って計算します。年齢調整罹患率を計算するのであれば、全年齢階級について、男女合計の年齢階級別罹患率を計算し、それを標準人口に足し合わせて計算します。
男女合計の罹患率 × 男の罹患率と女の率の平均
○ (男の罹患数+女の罹患数) / (男の人口+女の人口)
 

多重がん

多重がん・重複がん・多発がん

  1. 1人の患者に、別々のがん(一方から他方に再発、浸潤、転移したものではない)が、別の部位に発生することがあります。これを多重がん(重複がん)と呼びます。
  2. がんの罹患数では、多重がんは別々のがんとして、それぞれの診断年別集計に含まれます。
  3. 同じ部位に同じようながんが多発する場合を多発がんと呼びます。多発がんは、その数に関係なく、「1つのがん」として集計に含めます。
  4. 重複がん・多重がんは、同じ意味で用いられる場合もあり、重複がんと多発がんとをあわせて多重がんと呼ぶこともあります。ここでは、「別々の腫瘍として集計するもの」を多重がんと呼びます。
多重がん・重複がん 別の部位に、別のがんが発生すること。がん罹患数で、別々に集計します。
多発がん 同じ部位に、同じようながんが多発すること。腫瘍に数に関係なく、「1つのがん」と集計します。
 

多重がんを区別する意義

発生要因・予防方法の究明、早期発見
  1. がんの原因の9割以上は、喫煙、食事などの生活習慣です。特に喫煙は、肺がんのみでなく、口腔、咽頭、喉頭、膀胱など、多くの部位の発生率を高くする原因です。つまり、喫煙が原因で肺がんに罹った人は、喫煙しない人に比べて、他の喫煙関連がんに罹る確率も高くなります。
  2. 多重がんの中で頻度の多い組み合わせのがんでは、共通の発生要因を持つ可能性が高く、がんの原因・予防方法をさぐる目安となります。また、そのような関係を知ることにより、次のがんの発生を予防し、また、早期に発見することにつなげることが可能です。
 
治療関連がんの予防
  1. がんの治療として行われる化学療法や放射線療法は、がん細胞を死滅させるだけでなく、正常の細胞にも傷をつけ、それが次のがんの原因となる可能性があります。手術でがん細胞を全部とりきれた後に、再発予防のために念のために行った化学療法で、次のがんに罹る確率が高くなるのであれば、何をしているのかわかりません。
  2. 一昔前のがん患者の治療では、何よりも救命を重視していました。しかし、近年、がん患者が治癒する確率が高くなるにつれ、救命・延命のみではなく、生活の質(QOL)が重要視されています。治療関連がんの発生率を把握・評価することは、今後ますます、重要な意義をもつことになるでしょう。
 

多重がんの判定基準

  1. 左右の乳房に、別々のがんが診断された場合、これを2つと数えるのか、1つの数えるのか。その考えが方の違いによって、がんの数は、同然、異なってきます。多重がんの判定基準には、それを区別する目的に応じて、いろんな考え方があります。
  2. がんの罹患数をみる場合、多重がんをどのように定義し判断しているのかも、重要なチェックポイントです。特に、乳がん、大腸がんなどでは、数え方の違いが、罹患数に大きな影響を及ぼします。
  3. がんの罹患数・率を国際的に比較することを目的として、国際がん研究所/国際がん登録協議会(IARC/IACR)から提唱された多重がんの判定基準があります。わが国の多くの地域がん登録は、それに準じています。その判定基準では、左右の乳がん、大腸の離れた部位に複数発生したがん、いずれも1つと数えるルールです。
多重がんの判定基準 目的により異なる。がんの罹患数・率の計測では、IARC/IACRのルールが基本。乳がん、大腸がんでは、判定基準により罹患数が大きく異なってきます。
 

多重がんの危険性の計り方

  1. がん患者であっても、新たな別の部位のがんに罹る確率は、一般の平均と同じです。特定の治療を実施した患者の中で多重がんが発見された場合、治療関連がんと決め付ける前に、平均的な発生確率と比べて高いか低いかを検証することが必要です。
  2. 治療関連がんの発生率を評価する場合、対象とする患者における次のがんの発生の有無をどのように把握するかが重要です。
  3. 来院の状況のみで判断すると、多重がんのために来院された方ばかりが目にとまり、元気になったため来院されていない方を見落とす危険性があります。逆に、別の病院でがんと診断されたため、来院されない患者もいらっしゃるかもしれません。
  4. 多重がんの発生率を計測するためには、来院情報のみでは偏りが多く、対象とする患者全員について、その生死とがんの発生状況を系統的に調査しなければなりません。また、治療の有無だけで発生率を比較するのではなく、一般の平均的な発生率とも比較した上で、その危険性を評価しなければなりません。
多重がんの発生率 一般の平均的な発生率と比べて高いか低いかを検証することが重要です。また、「多重がんの発生」をどのような方法で把握したかによって、結果に大きな偏りが生じる危険性があります。
 
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